追憶の彼方の奥のほう石川医院 (I病院)

冬の短い太陽が傾きだした。もうすぐ日が沈む。
斜陽が辺りを照らし出す中、白い壁の建物が目に入った。

それは一見して洋風の建物であり、ここが日本の片田舎であることを忘れさせる。

隣にはこれまた特徴的な建物が一棟ある。
どうやらここが『石川医院』で間違いないようだ。

木造づくりの玄関が出迎えてくれる。

古い戦前や戦中の小さな診療所にはこのような趣の玄関があることが多い。モダンな造りは今の建物にはない良さがある。

扉の前にはベンチがある。もう誰も座ることのないベンチだ。

建物裏に回ってみると崩落が激しいようだ。

注射針がたくさん落ちている。ころんでこの中に手をついてしまったらと思うと・・・

崩落した場所から内部に入れそうだ。

薬品も戸棚の中にしまってある。

行けるかな。

しかし、思ったより崩落は激しいようだ。これより先に行けそうにない。

折り重なるガラス戸が不思議な情景を作り出す。

椅子と猫。持ち主はどこだろう。

カーテンはもう揺れない。

本も誰にも読まれない。

この空間はもう誰にも入ることは出来ない。

医療器具がそこら中に落ちている。

木造の階段がある。二階に行ってみよう。

だが二階の崩落はさらにひどい。これ以上はいけない。

向う側に何かある。

斜陽に照らされたそれは何かの台のようだ。

割れた試験管のような物。

倒されたベットが見えた。

一度外に出た。

一番目に見えた白い建物に入ってみよう。

日の光を浴びて白い漆喰が鮮やかに色ずいている。

もうすぐ完全に暗くなる室内。

残光は崩壊寸前の壁を妖しく映し出す。

ガラスの向うにはあの玄関。

子供が書いたのだろう。患者の病状を気づかった無邪気な文字だ。

二階の廊下。

なんとも言えない良い雰囲気の扉。

室内は天井が落ちてしまっていた。

清潔感を漂わせるカーテン。

窓から入る斜陽が長い光の帯を引いている。

廊下の先は無くなっていた。

二階から全体像を見る。このような造りは
【茨城の旧病棟】でもみたな。

完全に暗くなる前に。

先ほどの崩落した先に行ってみたくなった。

なんとか苦労して無理やり先に進むことに成功。

すると、緑の絨毯の部屋があった。

一見すると診察室のようである。

現代風のちょっと安っぽい椅子。

いたるところに医療品が置かれている。

これは、なんのために使うのだろう?

生活感が少し感じられる光景。それも崩壊はまじかだ。

待合室だろう。当時の温もりは今はない。

あの玄関の隙間からは光が差し込んでいる。まるでこちらに入りたいかのように。

上から見たひっくり返されたベットだ。

傍らには階段。天井が無く青空が見える。

腐食が激しい。危険すぎる。

薬瓶が転がっている。

廃墟探索はいつだって命がけだ。

グシャーっと崩れ落ちたような感じだ。

こっちの廊下はまだ崩壊の危険はなさそうだ。

長い間誰も足を踏み入れなかったことだろう。

先ほど見えた台の部屋だ。美しい部屋だ。
この空間が崩落もせず残っていることが奇跡だろう。
しかし・・・

この部屋はもうこの世には存在しない。いや、この廃墟じたいもう存在しない。

この廃墟は先日解体された。廃墟が待つ運命の日が、訪れたようだ。
もう誰もこの廃墟に入ることは出来ない。
すべては追憶の彼方の奥のほうに過ぎ去ってしまった。

このブログの記事は墓標である。

忘れ去られるものが、忘れ去られないための。

消えゆくものが、永遠に死んでしまわないように。

あの美しい部屋や、椅子の上の猫も、本も、空間も、時間も・・・
今も誰かの思い出の中にその廃墟は存在している。
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- 2016/05/02(月) 00:58:36|
- 廃病院
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| トラックバック:0
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| コメント:8
最近は一人で行ってるの❔あれから6年くらい経ったね。懐かしいよ。
今は大阪に住んでるけど廃墟は行ってないなぁ。この前は奈良の木造廃校に行ったよ‼︎
マヤカンも近いから行く予定。
- 2016/05/09(月) 07:53:01 |
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